市販の単語帳?にあまり効果がないわけ
国語の課題でかなり多いのが、言葉をあまり知らないというものです。お子さんの語彙力に自信がある方はほとんどいらっしゃらないのではないでしょうか。その語彙力を育てるために、いわゆる英語の単語帳のようなものをお使いになっている方も多いでしょう。ただ、あまり役に立っていないというのが実感ではありませんか?
私がお伺いするご家庭は、国語に問題を抱えていらっしゃるのですが、ほとんどすべてのご家庭で、モノは違いますが、同じような教材を見かけます。中学受験に必須の難語帳、学年別の単語帳などです。しかし、私が呼ばれたということは、これらの教材を使ってはみたものの、その効果が薄いのだと考えられます。
ここでは、①語彙力がない原因、②効果が薄い理由、③どうやって語彙力を鍛えればよいのか、の二点をお伝えしようと思います。
1.お子さんの語彙力を規定しているもの
お子さんの語彙力が何によって育まれるかと言うと、それはご家庭での会話です。英語と異なって、母語である日本語の言葉は、生まれ育つ過程で少しずつ蓄積されていくものです。最初は言葉を使えなかった赤ん坊が、片言の言葉を使うようになり、それが文になり、文章になり、というのは子育ての過程でどなたも体験してこられたはずです。
子供は、使ったことのない言葉の意味は絶対に知りません(漢字の意味がわかっていれば、そこから推測することはできます)。使うというのは、読む・聞く・話すのすべてを指します。子供は好奇心が強いので、周りの大人が使っている言葉を積極的に真似しようとします。つまり、子供の語彙力を規定しているのは、ご家庭で使われている言葉なのです。
ただし、その枠からはみ出しているお子さんもいらっしゃいます。そういうお子さんは必ず読書の習慣があります。本を読む中で言葉に出会い、その言葉の意味を親に聞いたり、調べたりして、言葉を自分のものにしていきます。
このように、「聞く」から入るか、「読む」から入るかの違いはあれ、「話す」(使う、書く)という過程を経なければ、言葉はその子自身のものになりません。
お子さんの語彙力は、今までの十年ちょっとの間にどれだけの言葉に触れ、その言葉を使ってきたかによって決まっているのです。
2.単語帳に意味がない理由
単語帳は、国語(現代文)の学習に於いてはほとんど役に立ちません。英語や古文と同列に考える事ができないのです。
なぜなら、言葉は概念とセットになって初めて自分のものにできるからです。たとえば、人の名前を覚えるときを想像してください。毎日出会う人の名前はすぐに覚えられますし、忘れることもあまりないでしょう(私はすぐに忘れます)。では、それが電話帳だったら?何人覚えられますか?また、それをどれだけ覚えていられますか?言葉=名前、概念=顔やパーソナリティ、と置き換えて考えれば、私の言いたいことは分かっていただけるのではないでしょうか?
英語や古文との違いはここにあります。つまり、これらの場合にはすでに頭の中に概念が存在するのです。ですから、暗記ということが有効になります。概念が存在しないお子さんに無理に言葉だけを覚えさせても、うまくいくはずがありません。
では、単語帳で意味を一緒に覚えればよいのか?というとそうでもありません。というのは、単語帳には意味が辞書と同じレベルでしか載っておらず、例文の数も少ないため、それだけでは本物にならないのです。
言葉を自分のものにするためには、その言葉とセットになる概念を自分のものにする必要があります。単語帳で言葉を覚えてもあまり効果がないのは、この「概念」が十分に育っていないためです。
3.語彙力の鍛え方
ご家庭でできること、今すぐ始めていただきたいことは、親子の会話です。ここまでの話を読んで、難しい言葉を意識して使って、話しかけるようにしなければ、とお思いかもしれません。しかし、会話というのは双方向のものですし、付け焼き刃で難しい言葉を使っても長続きしません。むしろ、お子さんの話を辛抱強く聞いてあげてください。特に4年生のお子さんは、まだまだ勉強以外で親子がともに過ごす時間がたくさんあるはずです。その中で、お子さんの話に耳を傾けていると、言葉を間違えていることがよくあります。たとえば、使う言葉を間違えている、文法がおかしい、など。その時に、ふさわしい言葉を教えてあげてください。
あるいは、文章を読んでいて知らない言葉に出会った時、最悪の対応は「辞書を引きなさい」です。辞書に書いてあるのは言葉の意味ですが、ここまでお伝えしてきたように、子供に欠けているのは概念です。辞書は、できるだけ短くその言葉の意味を説明しようとしていますから、辞書を引いたけど、よく分からないとなるのはむしろ当然です。そうではなく、くどいくらいに、その言葉の意味をご自身の言葉で伝えてあげてください。そして、いろいろな使い方の例を挙げてあげてください。言葉は、英語や古文の単語とは違います。文の中にあって初めて意味が実感できるものがたくさんあります。また、一つの言葉には様々な意味があります。
たとえば、「その場しのぎ」という言葉について、辞書には「なんとかその場だけを取り繕ってすますこと」と書いてあります。これを読んでも子供には理解できません。そこで、まず、自分が知っている言葉で説明をしてあげてください。「その時だけ良ければいいと思うこと」「その時だけ、どうにかごまかそうとすること」、「時間稼ぎ」などです。それだけでなく、「改善するつもりがないのに」というような言葉のニュアンスも伝えられると良いでしょう。「なにか悪いことをしてしまったり、悪い状況になったときに、それをごまかそうとして、本当は根本的な解決をするつもりはないのに、ごまかすこと」のような感じです。
そして、例文ですが、できるだけ身近なことを親子で考えてみると良いでしょう。たとえば、「あなたがしている、直前に漢字を覚えるのは、その場しのぎだよね。」とか「○○さんから借りた本をなくしちゃったけど、忘れただけ、って言うのは、その場しのぎのウソだね」などです。さらに、間違っている用例を伝えることができれば、なお良いです。たとえば、「嫌いな☓☓さんにワザとテスト範囲をごまかして、その場をしのいだ」は、悪いことを回避するためのウソという構造に合いません。
漢字の学習と同じで、言葉の力を育てるのはとても時間がかかります。それは、お子さんの今の語彙力が十年以上の時間をかけて育てられたものだからです。十年かけて蓄積された差を、一日や二日、一月程度の時間で改善できるわけがありません。
また、熟語の知識を増やすには、漢字の意味からのアプローチが有効です。漢字の学習に力を入れてほしいと申し上げるのは、それが文章を読むことにまでつながっているものだからなのです。