家庭学習の進め方
~文章題とどのように付き合うか~
国語の家庭学習は、どのように進めればよいのか、よくわからないという方も多いはず。算数などと違って、課題が見えにくいのがその原因です。でも、ほとんどの塾で宿題が出され、それをこなさなければならない。では、どうすれば最も効率よく家庭学習を進めることができるのか。塾が家庭学習を通じて求めていることは何なのか。他の教科との兼ね合いや、お子さんの現状から、どうするのが一番良いのかを考えてみます。
塾が求めること
国語の文章題を宿題として出さない塾はほとんどありません。ただ、家庭教師として、また塾講師として働く中での私の結論を先に言っておくと、文章題の宿題を出さない塾(講師)は良い塾(講師)だ、ということです。
なぜか。それは、子供が自分ひとりで取り組む文章題の演習にはあまり効果がないからです。国語以外の科目には豊富な類題がある一方、国語には類題というものが存在しません。もちろん、たとえば自由記述などの考え方が共通する問題はありますし、分野として大きく説明文・論説文・随筆文・物語文などがあります。ただ、この分野は漠然としたものですし、塾の授業で習ったことを使って解ける問題というものが宿題にはなっていないことがほとんどです。
では、なぜそんな無駄なことを家庭に強いるのかというと、これはサービスの意味合いが強いのです。塾で働いていると、家庭に対して家庭学習を課すことが子供が家で勉強をすることに繋がり、それが親の満足につながるという話をよく聞きます。子供の力を伸ばすため、ではなく、親を「塾に通っていることで子供が勉強している」と満足させるために、宿題を課している側面があるのです。
家庭学習での文章題の位置づけ
塾が家庭学習に文章題を出題する意図は分かっていただけたと思います。そして、それをこなすことに意味がないことも。そもそも、国語という科目はどのクラスであってもお子さんの到達度がバラバラです。最上位のクラスで一番できない子より、一番下のクラスで一番できる子の方が実力が上だということはよくあります。お子さんが抱えている課題も様々で、漢字が読めない、文章の主語や述語といった構造が理解できないというレベルから、問題の解き方がわからない、記述が書けないといったレベルまで様々です。算数で言えば、掛け算ができない子と分配法則が使えない子と、日本語が読めない子が混在しているようなものです。一つの家庭学習の文章題がお子さんの課題にピッタリと当てはまっているということは非常に稀です。
では、そのような宿題をどう扱えばよいのか。完全に無意味なものにしてしまうのはもったいないと思います。やらざるを得ないのであれば、少しでも意味のあるものにしていただきたいと私も思います。
文章題の解き方
まず、ご家庭でしていただきたいのはお子さんの現状把握です。今、お子さんは何ができて、何ができないのか、しっかりと観察してください。家庭で時間を作ることが難しい、あるいは、見ていてもわからないのなら、塾に聞いてみるのも一つの手です。ただ、塾の側でもそこまでしっかりと把握できていないことがほとんどです。聞いてみて、漢字が・・・記述が・・・と言われるようであれば、十分に把握できていないと思って諦めましょう。これらは、成績がふるわないお子さんの保護者への定番の言い訳です。
お子さんの現状を把握する基準にしていただきたいのが、①文章の再現、②問題文の要約です。多くのお子さんはこのどちらかに課題があります。
①は、文章を読んでみて、どのような内容であったかを説明させるものです。ここで、どの程度文章を読む力があるかが見えてきます。たとえば、a:よくわからない、b:最初の一行目から読み始める、c:最後の段落の内容だけを答える、などが想定される反応です。いずれも文章が正確に読み取れていません。
②は、問題文を読んだあとで、何を答える問題であるのかを説明させるものです。a:端的に理由、原因などと答えられるか、b:問題文をもう一度読み始めるかで、どの程度答えるべきことを把握できているかが分かります。
その上で、お子さんに合った問題の使い方をしてください。文章が読めていないなら、音読から始めるのも手です。声に出してスラスラ読めないお子さんが、文章を正確に把握できていることは稀です。あるいは、文章の中からわからない言葉を抜き出して、言葉の力を伸ばすのもいいでしょう。なお、語彙力を高める問題集が売っていたりしますが、あまり役に立ちません。この話はまた後日に改めます(長くなりそうなので・・・)。問題が把握できていないお子さんの場合、問題を解く前に、問題の内容を親子で確認することが有効です。
偏差値別の目安(5年生)
ここでは、偏差値帯ごとに、どのような解き方をしたら良いのかの目安をお伝えします。ただし、まずは正確なお子さんの現状把握が重要であることを念頭にお読みください。偏差値から分かることは、ほんの一握りだけです。お子さんの課題に必ずしも合っているとは限りません。子供の数だけ課題があります。
なお、偏差値帯は日能研の全国公開模試を想定していますから、名進研の方はお子さんの偏差値-3~5、浜学園のお子さんは+2~4をして考えてください。
偏差値40以下:ほぼ確実に文章が読めていません。言葉の意味に課題があることがほとんどです。
→4年生のテキストの音読をしてください。このタイプのお子さんは、4年生の段階で読むことに躓いている可能性が高いです。特に熟語の読み方が間違っている、文末までしっかりと読みきれない等の状況であれば、まずは文章を読むことに慣れるとともに、言葉の力をつけていく必要があります。
塾で課されている文章題は荷が重いでしょう。問題を解く時間はなくても構いませんが、スラスラ読めることを目標に、音読してみてください。
偏差値40~50:文章は読めていることが多いですが、難しい熟語になると読めないことがあります。内容の部分部分は理解できても、それを統一的・論理的に解釈してテーマを捉えることはできていません。また、問題の求めていることが分かっていないことも多くあります。
→素材文の内容はある程度わかっているので、知らない言葉・読めない言葉をしっかりと自覚することから始めましょう。たとえば、文章を読みながら知らない言葉を四角で囲むなどのやり方は有効です。また、漢字の学習から言葉を広げるというアプローチもありです。せっかく毎週漢字テストがあるのですから、有効に利用してください。問題の解き方については、様々な問題をこなして練習量を増やすことが有効です。ただ、問題の取り違いをしていることも多いので、そもそも問われていることを正確に把握できているか、横からチェックしてあげてください。
素材文のテーマを捉えるということは非常に難しいことです。ただ、この壁を超えないと国語を得意科目にできません。まずは素材文の再現から始めてそれを短くしていくのも手ですが、特に説明文では、何についての話であるかという中心部分から考えを広げていくと良いでしょう。
偏差値50~60:このレベルにいても素材文がほとんど理解できていないお子さんはいらっしゃいます。特に全体の内容が把握できていない場合、部分読解で正解できる問題を積み重ねると偏差値50はだいたい超えてきます。その分、文章の把握ができていないという問題の発見が遅れ、6年生の後期以降にずるずると成績が降下していくことになります。問題が何を求めているかは分かっているのですが、緻密に、理論的に考えられているわけではありません。まだまだ、なんとなく正解を選んでいるお子さんが多いのがこの偏差値帯です。
→問題は正解できているが、素材文の内容はあまり理解できていないという課題は、発見が遅れやすく、かつ、入試で足を大きく引っ張ることになります。偏差値50を超えていると、文章の把握はできていると思いがちだからです。入試問題では、物語文でも説明文でも、素材文の全体の内容がわかっている中に問題が位置づけられているため、内容の把握が不十分だと、無駄な時間を使ってしまうことが多くなり、その結果として手を付けられない問題が増えて、点数が思うように伸びません。
まずは、そのような課題を抱えていないかという点に注意して、模試のふりかえりをしてみましょう。その上で、良質の問題に取り組んでいくようにすると良いでしょう。この偏差値帯であれば、塾から課される宿題は比較的簡単にこなせているはずです。それに加えて、お子さんの課題に合った入試問題の過去問などに取り組んでみましょう。
また、問題を解くプロセスを言語化してみることも、このレベルのお子さんには有効です。なぜそれが正解だと考えたのかを、思考プロセスに乗せて説明するということを求めてみましょう。
この偏差値帯のお子さんの志望校はほとんどが南女・東海・滝のいずれかであると思います。どの中学でも記述問題が複数出題されますから、記述力に問題があるお子さんの場合には、こちらについても早めに対処を始めましょう。特に、名進研・浜学園に通っておられるお子さんの場合、記述への対処が遅れがちです。名進研の模試では記述の分量が少なめなので、白紙にして他の問題を正解するようにすれば偏差値は高く出ます。ただ、東海のように記述を中心とした中学の入試問題には歯が立ちません。
偏差値60~:素材文が正確に読み取れており、問題解決も論理的であるお子さんがほとんどです。ただ、この偏差値帯にいらっしゃるお子さんは、首都圏・関西難関校を志望されることも多いと思います。
→首都圏、関西、共に特徴的な出題をする中学がたくさんありますから、早めにそれらの出題傾向を掴み、必要な力を伸ばすことが重要です。このレベルのお子さんは国語を非常に強力な武器に育てることも可能です。ただし、中学によっては大変難しい問題を出題するところがあります。神戸女学院、灘、武蔵、筑駒、渋谷学園(渋谷・幕張)、雙葉などが典型です。志望校の出題の難易度や傾向によって到達しなければならないゴールも変わってきます。お子さんが6年生になる前までには、一度出題傾向や難易度を調べておきましょう。また、首都圏では5年生の段階から有名中学の模試が行われています。その中学の出題傾向に合わせた問題が出題され、志望する受験生が多く集まる模試ですから、是非活用してください。
家庭学習に親がどこまで関わるか
親が家庭学習に関わるかどうかについては、塾によって方針が大きく異なります。
日能研・E-rex:極力かかわらないようにしてほしい。
浜学園:どちらでもいい。
名進研:親子で家庭学習を進めてほしい。
おおまかに↑のような関係になっていますが、校舎によって、講師によっても異なります。ただ、日能研の「自分で学習を進められる力を育てる」というのは、理想である分、現実的ではないと感じます。小学生に、能動的な学習を求めるのは正直なところ厳しいと思います。こういう塾は、「いつまでも親がつきっきりで見るのか?」と主張されるのですが、今、つきっきりで勉強を見ることと、一生つきっきりで勉強を見ることは全く別の話であることを無視した暴論だと思います。今、家庭学習に深く関与するとしても、子供の成長に併せて親の関わる領域は、自然と狭くなっていくでしょう。
私は、中学受験で親が勉強に積極的に関わるべきだと思います。小学生に能動的な学習を求めるのはハードルが高いこと、受験には期限があること、自分での学習は中学に進んでから時間をかけて取り組めば良いこと、が理由です。
では、親はどのように子供の学習に関わるべきなのでしょうか。
1.事務処理
特に、国語の漢字、算数の計算、社会・理科の知識の記憶については、子供が一人で必要なものをまとめたり、調達したりすることが難しいです。テキストのコピーを取ってあげる、計算問題だけを集めたプリントを作ってあげる、間違えた知識を一覧にしてあげる、などの勉強の準備は、子供に難しいことですから、親がやってあげると効率的な家庭学習に繋がります。
2.状況把握
中学受験の場合、親が子供の成績を感知していないことは稀ですが、ここでの状況把握は、偏差値に現れない部分です。同じ偏差値でも、その原因は様々にあります。ミスが多いのか、漢字ができないのか、記述が苦手なのか、時間は足りているか、など、点数に現れないお子さんの弱点を把握できるのは親だけです(塾はそこまで一人ひとりを細かく見ていられません)。
3.勉強の管理
中学受験生はどんなに賢いお子さんでも、小学生であることをお忘れなく。自分で進んで勉強に取り組むのは、大変ハードルが高いです。まじめなお子さんでも、そのような勉強態度になるのは6年生の後半です。とても大変なことだと思いますが、親が勉強させる必要があります。
その際に、少しでも気分が軽くなるようにと私がいつもお伝えするのは、お子さんはまだ小学生であること、ほとんどのお子さんは親に言われないと勉強しないこと、の二点です。また、勉強しなければならないことは、できるだけ早い時期からお子さんに伝えた方がいいです。6年生になってから口やかましく言うより、4年生から勉強する時間を設定し、その時間は勉強に取り組むようにしておきましょう。勉強することが当たり前になれば、負担が軽くなります。好きになる必要はありません。嫌だけど、しなければならないことだから、と思いながら誰もが勉強に取り組んでいるのです。